右ねじの法則とスクリュー・ダンベルバー

ダンベル ダンベル

こんにちは、鹿野一郎です。
僕は予備校で物理を教えています。
今週は、電磁気の授業で、電流が作る磁場、磁場が電流に及ぼす力の内容を扱いました。
その中で、右ねじの法則、フレミングの左手の法則が登場します。
どちらも中学でも習う内容なので、大部分の生徒は最初から知っています。
なので、去年まではかなり軽く説明していました。

右ねじの法則というのは、電流が作る磁場の向きを表すもので、ねじを締めるのにドライバーで回転させる向きが磁場の向き、ねじがささっていく向きが電流の向きです。
でも、この例えはわかりにくいので、普通は人間の右手を使って説明しますよね。
右手の親指の向きが電流の向きで、残りの4本の指を、指が伸びる向きに回転させると、それが磁場の向きになります。
本当は指は伸びないんですが。

去年まではそうやって右手を使って説明していたんですが、今年から説明の仕方を変えました。

右ねじの法則がわからない生徒

去年、右ねじの法則がわからない生徒に初めて出会いました。
わかりませんと質問されて、説明するんですが、どうやって説明しても、うまく手を使えないようで、電流の向きに親指を向ける事が出来ません。
その生徒には4週連続で右ねじの法則の説明をして、最後にようやくわかって貰えました。
右ねじの法則も、フレミングの左手の法則も、1回説明すれば、その場でわかるものだと思っていたので、驚きの経験でした。

木曜日、洗面台で歯を磨いている時にその事を思い出していました。
今日、右ねじの法則を授業で説明します。
何か良い方法はないだろうか?
そもそも、最近の高校生はドライバーでねじを締めたりしないだろうし、締めるとしても電動ドライバーがホームセンターで安く売っているので、ねじをどっち向きに締めているのかわからない生徒も多いだろうな、などと思っていました。
何か良い模型はないかと思っていたら、ありました。

それは、スクリュー式のダンベルです。
もちろん自宅にスクリュー式のダンベルを持っている人はほとんどいないでしょうから、それを例に出すだけではなく、教室にダンベルバーを持って行き、カラーを締めるのを実演すれば良いと思いました。
ダンベルバーの大きさなら、教室の一番後に座っている生徒からでもちゃんと見えます。
とても良いアイデアだと思いました。

おそらく右手がうまく使えないというのは、頭の中に三次元的なイメージが出来上がっていなかったからなのでしょう。
まずは、実物を見てイメージを作り上げてもらえれば、後は自分の右手で対応できるようになるだろうと思いました。

スクリューダンベルバーと、IVANKOのDB-1

そうと決まれば、次はどうやってダンベルバーを職場に持って行くかが問題になります。
仕事用のカバンに入らない事はないですが、講師室に着いて、カバンからダンベルバーを取り出したら、周りの先生方から、「なんですか、それは?」と聞かれて説明が面倒になると思うので、何かの袋に入れて持って行こうと思いました。
ちょうど、使っていないシューズケースがあったので、それに入れて持って行く事にしました。
ダンベルバーとカラーでおよそ2kgです。
ダンベルとしてはとても軽いですが、仕事の荷物としては結構重いです。

スクリュー式のダンベルとカラーは右ねじの法則を実演するのに最適な教材だと思いましたが、実はねじ式のカラーも同じだと気づきました。
ねじを締めて、カラーをバーに固定するんですが、締める向きは、時計回りです。
時計回りにねじを締めると、ねじが下へ下へと降りて行き、ダンベルバーを圧迫します。
この時計回りが磁場の向きで、下へさがる向きが電流の向きです。
なので、IVANKOのDB-1(というダンベルバー)も持っていくことにしました。
2本のダンベルバー、カラーをシューズケースに入れて家を出ました。
木曜日は校舎まで車で行くので、荷物が思いということはありませんでしたが、翌日の金曜日は電車で通勤したので、重かったです。
というより、カバンが壊れそうでした。

ダンベル
最初に買ったダンベルバーとプレートです。



講師室に着いて、机の上にシューズケースを置きます。
その時に、ガチャンという金属音が鳴りますが、周りに聞こえないように静かに置きました。
そして授業開始の時間になったら、テキストとチョーク、おしぼり、マイク、シューズケースを持って席を立ちます。
エレベーターに乗ると、他の先生から聞かれました。

授業でスポーツシューズを使うんですか?

僕は次のように答えました。
「中身はシューズじゃないんですよ。ダンベルバーが入っています。」
すると、その先生は顔色を変えて、「まじで!」と驚きの声をあげます。

鹿野一郎
鹿野一郎

今日、右ねじの法則の話をするので、実際にスクリュー式のカラーを装着して、それを生徒に見せようと思うんですよ



そういうと、その先生は安心したように、「よかった。俺はてっきり授業中に説明しながらトレーニングをするのかと思ったよ。」と言いました。
いくらなんでも、それはないでしょう。
そこまで行ってしまったら、もうおしまいですよ。

百歩譲るとしても、講師室までじゃないですか?
講師室で休み時間にダンベルカールやサイドレイズをやっていたら、もう相当な大馬鹿野郎で、まともな人間とは思えませんが、それでもせめてチャイムが鳴ったら、ダンベルを講師室に置いて、教室に行くんじゃないですか?
教室までダンベルを持って行って、説明しながらカールをしていたら、もう大馬鹿野郎を通り越して、末期的な病人ですよ。
重度のアルコール依存症の患者と同じだと思います。
もうそこまで行ってしまったら、その人は予備校の教壇に立つべきではありませんね。

エレベーターにはもう1人物理の先生がいたんですが、その先生はスクリューダンベルで右ねじの法則を説明するというアイデアに驚き、「素晴らしい。」と言ってくれました。
実際のねじを使っても小さくて見づらいし、こんなによい教材は他にないと思います。

ダンベルのバー
上が28mm規格のダンベルバーで、下がTMスポーツの細いダンベルバーです。

教室で

教室に入って、教卓の上にシューズケースを置きます。
静かに置いてもガチャンと金属音がなります。
生徒は何だろうと思っている様子ですが、構わず授業を始めます。
電場と磁場の違いを簡単に説明し、永久磁石の正体は実は電流だと簡単に説明し、今日の授業で登場する公式を黒板に書いて行きます。
そして、右ねじの法則の説明に入ります。
「普通は人間の右手を使って説明するんだけど、それではわからない人がいるらしい事が最近わかったので、良いサンプルを持ってきました。」と言って、シューズケースのファスナーを開きます。
中からダンベルバーを取り出すと、教室が軽くどよめきました。

「これは僕が大学生の時に買ったダンベルバーです。」と説明して、スクリュー式のカラーを取り出します。
そしてバーを生徒の方に向け、ゆっくりとカラーを装着します。
生徒から見て、カラーが時計回りに回転すると、奥へカラーが移動します。
その回転の向きが磁場の向きで、カラーが進む向きが電流の向きだと説明します。
ほとんどの生徒は最初からわかっている内容ですが、初めてダンベルバーを見る生徒もたくさんいたでしょうから、インパクトは物凄くあったと思います。

その後、実際に問題を解く時も、黒板の図の電流の向きにダンベルバーを揃えてカラーを回し、こういう理由から、導線の上側では磁場が裏から表の向きになり、導線の下側では表から裏の向きになると説明して行きました。
持ち運びはちょっと重くて不便ですが、視覚的な効果は抜群なので、来年からも右ねじの法則はダンベルバーで説明しようと思っています。

僕は授業中に小道具はほとんど使いません。
使うのはレンズの授業をする時に、レンズを使うぐらいでした。
でも、今後は磁場の説明でダンベルを使うことになるでしょう。

一番下が、IVANKOのダンベルバー、DB-1です。

講師室で、次の教室で

授業を終えて講師室に戻ると、話題はダンベルバーです。
ちょっと見せて、という先生がいたので、シューズケースから取り出して手渡します。
すると、「おお、これだけで結構重いんだね。これ何kgあるの?」と聞きます。
2kgですよと答えると、何kgまで重りをつけられるの?と質問されました。
はてな?
なんでそういう質問が出るんだろう?
何kgまでつけられるか?それは必要に応じてつければ良いじゃないかと思いましたが、そういう事を聞きたいようではないです。
結局僕は、何kgでも幅に余裕があれば付けられますと答える事になりました。
多分、その説明では全然言っている事が伝わらなかったと思います。

休み時間が終わって、また教室に戻ります。
木曜日は同じ授業を3回やるので、ダンベルの実演も3回やりました。
2回目の説明の時に、講師室で他の先生から何kgまで重りをつけられるのと聞かれたと話したら、一部の生徒が、「そう、そう。それが知りたい。」という顔をしています。
それを見て驚きました。
講師室で僕に尋ねた先生も、教室の生徒たちも本当に何も知らないようです。
だから僕は、左右に1kgのプレートをつければ4kgになるし、左右に5kgのプレートをつければ12kgになると説明しました。
もし左右に20kgのプレートを2枚ずつ付けたら82kgになるけど、そんなダンベルでトレーニングをする人はいないだろうとも話しました。
ダンベルのセット販売もありますが、プレートが足りなくなったらバラで買い足せば良いので、バーに何kgまで重りを装着できるか?という質問は、実際にダンベルを使っている人はしないでしょう。

それを聞くんだったら、プレートを装着する部分の長さが何cmかを尋ねると思います。
そこが長ければ長いほど多くのプレートを付けられるからです。

自宅に死蔵されている似非えせダンベルバー

僕は3本のダンベルバーを持っています。
1本目は大学生の時に買ったスクリューバーです。
メーカーが不明ですが、NIPPYOのプレートと一緒に買ったので、おそらくNIPPYOの物だと思っています。
当時船橋にあった西武のスポーツ用品店で買いました。
28mm規格のバーです。

2本目はTMスポーツというメーカーの似非えせダンベルバーです。
TMスポーツのダンベルは、大昔、弟から一式もらいました。
一式というのはベンチプレス台、バーベルシャフト、プレート、ダンベルバー4本です。
穴が小さく、バーも細いです。
穴の直径は26mmしかないので、28mm規格のプレートとの互換性はほとんどありませんでした。

貰ってすぐにベンチプレス台とバーベルシャフトは処分してしまいました。
デカすぎて、長すぎて邪魔だったからです。
バーベルシャフトの長さは測っていませんが、おそらく200cmだっただろうと思います。
家で使うには200cmは長すぎるんです。
今僕が使っているシャフトは160cmの物です。

しばらくは似非ダンベルを使っていましたが、やがて友達のE先生に譲りました。
その時に、プレート全部とバー3本を譲り、似非バー1本は手元に残しました。
バーが2本ないとダンベルが使いにくいからです。

でも、バーが細すぎて、プレートがかちゃかちゃなるのが嫌でした。
なので最近になってIVANKOのダンベルバーを買いました。
これが3本目のバーです。
それによって、TMスポーツの似非ダンベルバーは用済みになり、押し入れに死蔵される事になりました。

来年はそれを使って説明し、そのまま校舎に置いておこうと思います。
家に置いておいてもまるっきり使う機会はないので、校舎で1年に1回使うなら、その方が良いからです。
似非ダンベルバーに新たな活動の場を与える事が出来ます。

ダンベル
TMスポーツのダンベルです。

右ねじと左ねじ

右ねじの法則という名前が気になった時期がありました。
右ねじって何だ?
左ねじってあるのか?
いっそのこと、「右ねじの法則」じゃなくて、「ねじの法則」で良いんじゃないか?と思いました。

そう思って、職場で他の先生に聞いてみると、左ねじという物があるんだそうです。
例えば換気扇の回転するファンを固定するねじなどがそうです。
回転でねじが緩まないように、通常とは逆向きにねじが作ってあるそうです。

そう言われてみれば確かにそうです。
確かにそうなんですが、例えばある人に、ねじを手渡して、「これは右ねじですか?それとも左ねじですか?」と質問したら、おそらく「は?何言ってんの?ねじはねじだろ。」という答が返ってくると思います。

でも、右ねじと左ねじがあるなら、ちゃんと「右ねじの法則」と言わなければダメなんですね。

授業を終えて

今日も右ねじの法則の説明で、ダンベルバーを使いましたが、そもそも今時の若者は、ねじを締める向きを知っているのだろうかと思って、生徒に尋ねてみました。
ねじを締める向きが分かる人手をあげて、というと全員が手をあげ、知らない人手をあげて、というと、誰も手をあげませんでした。
はて?
一体、今時の若者はどうやってねじを締める向きを身につけるんでしょうか?
今後、僕のところに質問に来る生徒たちに、逆に質問して確かめて行こうと思います。



今回はこんなところです。
ありがとうございました。

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