こんにちは、鹿野一郎です。
今日はベンチプレスのセーフティーバーについて語りたいと思います。
ベンチプレスのセーフティーバーは、喉を守るためのもので、腹や肋骨を守るためのものではないと思う、という話です。
僕がベンチプレスを始めた頃(30年ぐらい前)は、セーフティーバーなんかなかったと思います。
あったとしても、ベンチ台とは別に、独立したセーフティーバーをベンチ台の左右に立てて使っていました。
僕がバーベルでのベンチプレスをするようになったのは、成田市体育館での事でしたが、あの当時はセーフティーバーはなかったと思います。
セーフティーバーを初めて見たのは、ゴールドジムに行った時だったと思います。
大塚のゴールドジムでしたが、それはベンチ台とは別の独立したセーフティーバーでした。
最近はベンチ台にセーフティーバーがくっついている一体型のものが増えてきているような気がします。
1 セーフティーバーは喉を守るためにある
セーフティーバーは何のためにあるのか?
それは、喉を守るためにあるんだと思います。
例えば100kgのバーベルでベンチプレスをして、追い込みすぎて最後の一回が上がらなくなり、潰れてしまった時、バーベルシャフトは胸の上に下りますが、トレーニングをしている人がブリッジを解いて、べたっとベンチに寝ると、胸の位置が低くなり、シャフトがセーフティーバーに接触して止まります。
このため、胸や肋骨を守るためにセーフティーバーがあると思っている人がいるようです。
結論から言うと、 100kgのバーベルを胸の上に下ろしても肋骨が折れることはないし、死ぬこともないです。
多少は痛いと感じる人もいるかも知れませんが、僕は全く痛いと感じません。
100kgと聞くととんでもない重さに聞こえますが、バーベルシャフをと胸に下ろしても大した圧力はかかりません。
2 バーベルシャフトから受ける圧力
ちょっと考えてみてください。
2リットルのペットボトルに水が満タンに入っています。
なので重さは2kgです。
そのペットボトルを逆さまにして、手のひらの上に置きましょう。
キャップが下で、底が上です。
手のひらはどのくらいの力で圧迫されるんでしょうか。
手のひらが潰れたり、骨が下りたりするでしょうか。
さすがにそれはあり得ないですよね。
ペットボトルの蓋の半径は28mm程度なので、面積はおよそ6平方センチメートルです。
なので、1平方センチメートルあたり、およそ330gの重さがのしかかっていることになります。
では、 100kgのバーベルを胸に下ろした時はどうでしょうか。
バーベルシャフトの直径は28mmです。
胸の横幅を40cmと仮定すると、接触面積は112平方センチメートルになります。
ここに100kgの重さが加わるので、1平方センチメートルあたり890gの重さがのしかかることになります。
これはペットボトルの時の、およそ2.7倍です。
ペットボトルを逆さまにして胸の上に置き、その重さを2.7倍にしたら、肋骨が折れるんでしょうか?
または内臓が破裂して死ぬんでしょうか?
そんなに体が弱い人はいないと思います。
ちなみに1平方センチメートルあたり890gの重さがのしかかる状態というのは、海などで水深9mまで潜った時の水圧と等しいです。
9mですよ。90mではないですからね。
水深9mまで潜ったら水圧で肋骨が折れ、内臓が破裂するんでしょうか?
いくらなんでもあり得ないと思います。
ちょっと調べてみたら、素潜りで水深112mまで潜った人がいるようです。
およそ12気圧の水圧がかかりますが、それでも人体は大丈夫なんですね。
3 ベンチプレスで潰れたら
実際問題、僕はベンチプレスで潰れて胸の上にバーベルを下ろすなんていうことは何度もやってきました。
別に非常事態でもなんでもありません。
バーベルが上がらずに胸の上におろした場合は、そのままバーベルを、へその方に押して、へそより少し下方まで移動させます。
そうすると上半身は起き上がれるようになるので、体を起こし、バーベルを持ったまま、ベンチから立ち上がります。
そしてバーベルを持ったままベンチ台のラックの近くまで持っていきます。
僕の力ではそれをラックの高さまで引き上げて、元に戻すことはできないので、近くに置いてからプレートを外して、軽くしてからラックに戻します。
そしてプレートをつければ元に戻ります。
ユーチューバーのkatochan33さんが2013年5月15日に公開した動画では、140kgのベンチプレスをセーフティーバーなしでやって、2回目で潰れてしまい、自力で脱出している様子が公開されています。これと同じ要領で脱出する事が可能です。
この動画のリンクは下の貼っておきます。
興味のある方はご覧ください。
4 圧力の観点から見ると
100kgのバーベルを胸の上におろして、肋骨が折れたり、内臓破裂を起こすんだったら、ベンチプレスをやっている段階で、手首の骨が折れ、手のひらや手首は破壊されると思います。
バーベルを握る手の大きさが、幅10cmと仮定すると、両手を合わせて手の幅は20cmになります。
胸の上にバーベルを下ろす時の計算は、胸の幅を40cmとして計算しましたが、手で持っている時は幅がさらに半分になります。
ということは両手にかかる圧力は胸に下ろしたときの圧力の2倍ということになります。
なのでバーベルを胸に下ろして肋骨が折れ、内臓が破裂するんだったら、ベンチプレスを始める段階でいきなり手首が破壊されることになります。
ちょっとこれは聞いた事がない話ですね。
バーベルが重すぎて、ラックから外せないというのは良くある話だと思いますが、重いバーベルを持ち上げようとして思い切り力を入れたら、手首を骨折し、手のひらの骨も折れたという話は聞いた事がないです。
そうなると、バーベルをラックから持ち上げられる段階で、手のひらはその圧力に耐えていることになり、当然結論として、そのバーベルを胸の上におろしても大丈夫という事になります。
5 バーベルを勢いよく胸の上に落としたら
では、バーベルを勢いよく胸の上に落としたらどうなるでしょうか。
それは、本人がちゃんとそれを自覚した状態で落ちるんだったら、問題ないと思います。
ベンチプレスをする時に、スタートの姿勢から勢いよくバーベルを落として胸でバウンドをさせて、バーベルをあげるやり方がありますね。
僕も昔はそれをやっていました。
この、「バウンドを利用する」方法は、一番きついところで、胸からの垂直抗力によるアシストを受けられるので、とても楽にあげる事ができます。
そのため、自己ベストに挑戦する時などに、こういうやり方になる事があると思います。
自己ベストに挑戦するような重いバーベルを胸でバウンドさせるのに、肋骨が折れたり、内臓が破裂したりすることはありません。
なので、人体は僕たちが思っているよりかなり丈夫に出来ているんですね。
ただし、これはやっている人がちゃんと胸の上にバーベルが落ちると分かっていて、尚且つそれで問題ないと分かっている場合に限られると思います。
何も知らない人をベンチに寝かせ、上空60cm程度の位置から胸に目掛けてバーベルを落下させたら、これはとても危険だと思います。
もちろん、こんなことは犯罪そのものなので、誰もやらないと思いますが、このような無自覚の衝撃にはとても弱いと思います。
6 バーベルを喉の上におろしたら
では、バーベルを間違えて喉の上に下ろしてしまったらどうなるのでしょうか?
これは過去に死亡事故が起こった事例です。
この場合は本当に危ないです。
喉の横幅が2cm程度とすると、喉とバーベルシャフトの接触面積は6平方センチメートル足らずになります。
そこへ100kgの重さがのしかかるので、1平方センチメートルあたり、17kg程度の重さになります。
寝そべっている人の喉の上に15kgのプレートを立てておくよりももっと強い力が加わるので、本当に危ないです。
(それでも本当に喉が強い人は大丈夫だと思いますが)
このような事故を防ぐために、セーフティーバーは必ず喉より高い位置にセットする必要があります。
喉さえ守れば、ベンチプレスで潰れて怪我をすることはないと思います。
7 初心者への指導では
さて、指導者が初心者にベンチプレスを教える時は、どうするでしょうか?
バーベルは胸に落としても大丈夫だから、喉だけ守りましょうと言うのでしょうか?
さすがに指導者の立場になると、このセリフは言えなくなると思います。
相手は初心者なので、どんな間違いをやらかすかわかりません。
想像を絶する事態が起こって大怪我をしないとも限りません。
そうなると、どうしてもセーフティーバーは必ず使いましょう。セーフティーバーで体を守りましょう、というセリフになるんでしょうね。
そして真面目な初心者は、バーベルを胸に下ろすと、肋骨が折れ、内臓が破裂すると思い込むようになるのかも知れません。
もしかしたら、最近のベンチプレス台にセーフティーバーが一体化されているのは、そういう理由もあるのかも知れません。
セーフティーバーがないベンチプレスの台なんて、怖くて使えないよと思う人が多くなると、別売よりも一体型の方が売れるようになってしまうのかも知れません。まあ、安全第一なので、別に構わないのですが。
今回はこんなところです。
ありがとうございました。