こんにちは、鹿野一郎です。
7月30日に東京オリンピックのトランポリンの予選と決勝が行われました。
女子の代表選手は、森ひかる選手と宇山芽紅(めぐ)選手でした。
金メダルが期待された森ひかる選手は、残念ながら予選で敗退してしまいましたが、宇山芽紅選手は決勝で5位に入賞しました。
日本人のトランポリンの選手として、オリンピックでは過去最高の順位です。
僕の娘は今、6年生で、トランポリンを習っているんですが、宇山選手は娘が通っているクラブのコーチでもあります。
なのでずっと宇山コーチを応援していました。
1 2018年トランポリン世界選手権大会
娘が今のクラブに通い始めたのは2018年の10月でした。
元々は地元の小学校の体育館で土曜日の夜にやっていた体操教室に通っていたんですが、そこでトランポリンに目覚め、トランポリンを専門的に教えてくれるクラブに移ったんです。
そのクラブからは2017年の全日本選手権の女子のチャンピオン(20歳)が生まれていて、とてもレベルが高いクラブだと思っていました。
翌年の2018年には今回オリンピックの代表になった、森ひかる選手と宇山コーチがペアを組んで、シンクロナイズド・トランポリンで日本勢初の金メダルを取りました。
シンクロナイズド・トランポリンというのは、トランポリンの台を2つ並べて、二人が同時に同じように跳ぶ競技です。
世界選手権ではこの種目がありますが、オリンピックにはありません。
クラブ始まって以来、初めての世界チャンピオンが誕生したということで、クラブでも大々的に宣伝していました。
練習の後で、世界選手権の様子を子供たちに見せていました。
本当に二人の息がぴったりで、横からみると一人で跳んでいるように見えるぐらい同じ動きをしていました。
この時から宇山コーチにオリンピック出場の期待がかかるようになりました。
2 宇山コーチについて
宇山コーチは千葉県出身で、佐倉市にあるトランポリンのクラブに子供の頃から通っていました。
クラブに通っている子供達の中には幼稚園の頃やもっと前からトランポリンを始めた子もいますが、宇山コーチがトランポリンを始めたのは、なんと小学校4年生の時だったそうです。
かなり遅いスタートです。
でもわずか1年でイーストジャパン・トランポリンフェスタという大きい試合に出場したそうです。
もうこの時点で信じられません。
トランポリンを始めて1年の子供がイーストジャパンに出場するなど、通常では考えられないことです。
で、その試合の時の順位が21位だったそうです。その結果を受けて、4年生だった宇山コーチは大泣きし、もっと強くなるために一生懸命練習したそうです。
そして、驚くことに6年生の時には世界年齢別選手権に出場したと言います。
トランポリンを始めて1年でイーストジャパンに出場し、その翌年に世界年齢別選手権に出るなど、他に例がないんじゃないでしょうか。
凄すぎます。
恐るべき才能と努力です。とても常人とは思えません。
この話は、2019年の世界選手権の前の宇山コーチの壮行会の時に聞きました。
壮行会には子供と親を合わせて90人ぐらいは参加していましたが、この話を聞いて、子供たちは頑張ろうと思ったんでしょうか?
あまりの才能の違いを思い知らされて、大きな壁を感じたんじゃないでしょうか。
ちなみにこの話を疲労したのは宇山コーチ本人ではなく、子供の頃から宇山コーチを指導してきたコーチでした。
壮行会ではうちの娘も宇山コーチと一緒に写真を撮り、サインももらいました。
そして最後は宇山コーチが世界選手権で披露する予定だった、3回転宙返りを2本含む演技を披露してくれました。
間近で見ていると、「ふっ!」という行きを吐く音まで聞こえてきて、迫力がありました。
ここから下に書く事はインターネットで読んだ記事に書いてあったんですが、宇山コーチは金沢学院大学に進学しました。
トランポリンをやっている人なら誰でも知っていますが、金沢学院大学のトランポリンは日本最強です。
なので、事実上のトランポリン留学です。
宇山コーチは世界レベルで戦っていましたが、他の海外の選手と比べると、ジャンプの高さに課題があったそうです。
どうしてもそれ以上伸びることができず、大学を出た後は、地元に戻り、自分を育ててくれたクラブでもう一度一からやり直すことにしたそうです。
そしてクラブのコーチ兼選手になりました。
4年生の頃から宇山コーチを指導していたコーチと二人三脚でオリンピックを目指すことになりました。
金沢学院大学のトランポリン部は本当に強くて、娘が通っているクラブの高校生の選手兼コーチにも、高校卒業後、金沢学院大学に進学した人がいます。
地元に戻った宇山コーチは2018年の世界選手権のシンクロナイズド・トランポリンで森ひかる選手とともに金メダルを獲得します。
続く2019年の世界選手権は、壮行会までやったので、クラブの子供達が大勢会場まで応援に行きました。
うちも家族3人で有明体操場まで応援に行きました。
そう、有明体操場とは、オリンピックが開かれたその会場です。
有明体操場はオリンピックのために作られ、オリンピック後は座席を取り外して展示場にする予定のため、座席は簡素な作りでした。
ただの平面の板で、クッションを持参しないと腰が痛くなるほどでした。
背もたれはなく、当然ひじ掛けもありません。
横に長い板があって、そこに腰掛けるんです。一つ一つが独立した椅子になっていないんですよ。
ただの板でした。
オリンピックの会場になるんだから、もう少し何とかならなかったのかと思ったのは事実です。
3 2019年の世界選手権大会
2019年の世界選手権大会は、できたばかりの有明体操場で開催されました。
会場に入って驚いたのは、大音量の音楽が流れていて、司会者はまるでショーの司会者のように客席を盛り上げることに余念がなかったことです。
会場を間違えたのかと思いました。
世界一を決める試合をする会場ではなく、何かのお祭り騒ぎの会場に来てしまったのかと思いました。
試合は初日が予選で、二日目が決勝でした。
我が家の3人は決勝の日に会場に行きましたが、なんと宇山コーチは予選で敗退してしまっていました。
世界選手権は8人で競いますが、残った日本人は2人で、森ひかる選手と、土井畑知里選手でした。
土井畑選手という人は知りませんでしたが、とても上手でした。
8人の選手のトップバッターとして演技をしましたが、毎回綺麗にトランポリンの中心に着地し、全く前後にブレません。
さすが世界選手権だと思いましたが、演技を終えると土井畑選手は何度も大きくガッツポーズをしていました。
余程会心の演技ができたんでしょう。
この土井畑選手の好成績は、森ひかる選手に大きなプレッシャーを与えました。
まず、この試合はオリンピックの代表選考を兼ねていて、日本人で最上位になった選手は自動的にオリンピックに出場が決まります。
オリンピックの出場枠は2つあり、もう一つはワールドカップのランキングで決めるということになっていました。
この試合の時点で、ワールドカップの日本人のランキングは1位が森ひかる選手で、2位が宇山コーチでした。
なので、もし土井畑選手が優勝すると、土井畑選手はオリンピックに内定し、ワールドカップのランキングでの枠は森ひかる選手が最も有力ということになるわけです。
なので我々としては、なんとか森選手に勝ってもらって、ワールドカップのランキングからは森選手に抜けてもらいたいと思っていました。
宇山コーチがオリンピックに行くためには、それが有利な状況でした。
試合は進み、海外の選手が次々に跳びますが、誰も土井畑選手の記録を上回ることはできません。
そして7人目に森ひかる選手が登場しました。
会場は森ひかるコールで割れんばかりの盛り上がりでしたが、本人の緊張は尋常ではなかったと思います。
演技が始まりました。
僕はトランポリンのことはそんなにわかりませんが、土井畑選手と比べると、森ひかる選手の方がジャンプが高いのははっきりとわかりました。
着地の正確さでは土井畑選手が上ですが、技の高さは森ひかる選手の方が上でした。
演技を終えた後、森ひかる選手は何度も頷きながら控えの席につきました。
点数が出るまではとても長く感じたでしょう。
点数が出る瞬間には思わず、「お願い!」という言葉が口から出ていました。
点数は覚えていませんが、土井畑選手の点数を上回り、その瞬間に森選手のオリンピック出場が内定しました。
土井畑選手はとても頑張ったと思いますが、残念ながら一歩及びませんでした。
森選手の喜びは相当なもので、会場を走り回りながらガッツポーズをして喜んでいました。
翌日の新聞にはその様子を、「森選手は少年のように喜びを爆発させていた。」と表現してありました。
さて、試合の演技は最後の一人です。
暫定順位は森ひかる選手が1位、土井畑選手が2位です。
最後の選手の得点は伸びず、日本人の金メダル、銀メダルが確定しました。
でもそのことよりも、会場の雰囲気は森選手のオリンピック内定に酔っていたように感じます。
日本人として史上初の個人種目での世界選手権の金メダル獲得ですが、それよりもオリンピック内定の方が重大な事だったようです。
4 その後の代表選考
オリンピックの出場枠は2人で、そのうち1人は森ひかる選手に決まりました。
もう一人はワールドカップのランキングで決まります。
日本人としては宇山コーチのランキングが1位だったので、そのまま順当に行けばオリンピックに内定するはずでした。
ワールドカップの試合はあと1試合残っていて、2020年の春にイタリアで開催されるはずでした。
しかし、この試合は開催されませんでした。
そうです。あの新型コロナウィルスが原因です。
あの当時のイタリアは世界で最も危険なところで、入国することすらできなくなっていました。
オリンピックの代表枠はどうなってしまうんだろうと思っていたら、オリンピックそのものが1年延期になってしまいました。
あの時、本当に1年延期で大丈夫なんだろうかと思いましたが、結果としては大丈夫じゃなかったと思います。
2年延期するべきという意見もありましたが、2年延期したら代表選考もやり直す必要があったでしょう。
思い切って中止にするということもできたんじゃないかと思いますが、結果は1年延期で世論を無視して強行開催されました。
コロナであらゆる試合が中止になるなか、どのようにしてあと一人の代表を選ぶのかは謎でしたが、オリンピックの本当にギリギリ間際になって、宇山コーチが代表に内定したという通知がクラブを通じてありました。
でも果たしてオリンピックは開催されるのでしょうか?
大いに疑問はありましたが、オリンピックは開催されました。
史上初だと思いますが、無観客で開催されました。
5 東京オリンピック、トランポリン女子予選・決勝
オリンピックのトランポリンの様子はBSで放送されていたので、録画して見ました。
16人の選手が予選に参加し、そのうち8人が決勝に進みます。
トランポリンは10本のジャンプを跳びますが、途中で失敗して演技を中断してしまうと、そこまでしか採点されません。
フィギュアスケートとか体操だったら、途中で転倒しても起き上がって演技を続けることができますが、トランポリンは失敗したらそこで終わりです。
予選は2本跳んで、その合計点で競いますが、途中で失敗して転倒する選手が何人もいました。
そして、信じられなかったのは森ひかる選手の2本目でした。
解説の人も思わず、「危ない!まじか!」と言っていましたが、ジャンプが横に逸れて、トランポリンのギリギリ端でジャンプしてしまったため、次のジャンプの高さを得ることができず、宙返りをまわり切れずに失敗になりました。
まさかの出来事ですが、世界選手権金メダルで、オリンピックの金メダル候補だった森選手が予選で敗退しました。
宇山コーチは安定した演技を見せてくれていたと思います。
予選を5位で通過して、決勝に進みました。
こんなことを言っては行けないと思いますが、トランポリンを見ていて美しく見えるためには痩せ型の体型の方が良いと思いました。
欧米の選手にはやや太めの選手もいましたが、太いよりは細い方が宙返りが綺麗に見えると思いました。
いうまでもなく森選手も宇山コーチも痩せ型の体型に入ります。
決勝は、予選のあと同じ日にすぐ始まりました。
決勝は予選と違って1本勝負です。
しかも予選の点数は関係ありません。決勝の1本で高い点数を出した人が勝ちます。
最初の選手は10本目のジャンプで失敗し、優勝争いから脱落しました。
宇山コーチは5番目に跳んで、暫定1位になりました。
しかし、その後に跳んだ4人が全員宇山コーチの点数を上回っため、メダルには届かず、5位になりました。
これは日本人としては過去最高の順位だそうです。
おそらく宇山コーチはもっと上の順位を目指していたと思います。
おそらく喜びよりも悔しさの方が大きかったのではないかと思いますが、次のオリンピックも狙えると思うので、頑張って欲しいと思います。
6 最後に
娘が通っているクラブのコーチがオリンピックに出場したということはとても凄いことだと思います。
本当ならば、コロナなんかなくて、以前のように会場で大声で応援が出来たらとても良かったんですが、しばらくはそれは叶わないかも知れません。
娘が通っているクラブの、選手コースの子たちの中には全日本ジュニア選手権で表彰台に立ったような子もいますが、世界年齢別選手権には、僕が知る限りでは誰も出場していません。それだけハードルが高いようです。
世界年齢別選手権に出場するためには、日本年齢別選手権で2位以内に入らないと行けないようですが、これがとても厳しいみたいです。
おそらく選手コースの子たちも将来のオリンピック選手を夢見て頑張っているんだと思います。
あのクラブからは全日本選手権のチャンピオン、世界選手権のシンクロナイズド・トランポリンのチャンピオンと、オリンピック選手が出ました。
若い選手、子供たちも後に続くことができたら素晴らしいと思います。
宇山コーチお疲れ様でした。
ありがとうございました。